エドワード・エルガーは、1901年から08年にかけ、4曲の行進曲シリーズを作曲しました。(後に1930年に5曲目を追加しました。)題名は、シェークスピアの悲劇「オセロ」第3幕の、主人公のせりふ
| 坪内逍遥訳 |
Farewell the neighing steed and the shrill trump,
The spirit-stirring drum, th'ear-piercing fife,
The royal banner, and all quality,
Pride, pomp, and circumstance of glorious war! |
高嘶をする軍馬も、すゝどい喇叭の音も、 心を躍らせる陣太鼓も、耳を貫く軍笛も、 あの莊嚴な大旗も、名譽の戰爭に附物のあらゆるあの特質、 譽れも、飾りも、立派さも、もうさよならぢや! |
から取って、pomp and circumstance(飾りと立派さ)と名付けられました。はて、circumstanceに「立派さ」という意味があったっけ?と首をかしげる方もおいででしょうが、辞書では「仰々しさ、物々しさ」とも訳されている、古風な用法です。フランス語やドイツ語でこの行進曲シリーズを言う場合、自国語に翻訳せず、そのままpomp and circumstanceと言って
います。日本語では思い切り意訳した「威風堂々」という言い方が定着しました。
1番は1901年に作曲され、同年2番と共に初演されました。この1番はシリーズのなかではずば抜けて有名で、「威風堂々」に2番以降があることを知らない方も多いようです。
アレグロの序奏に始まり、速い速度のまま、第1主題、第2主題が登場し、次第にゆっくりになって、ゆったりとした旋律の中間部(トリオ)に入ります。この中間部はとりわけ有名で、それだけで独立して歌つきなどで演奏されることがあり、その場合「希望と栄光の国」という名前がついています。「希望と栄光の国」は、イギリスでは「第二の国歌」とも言われています。更に、カナダ、フィリピン及び米国では高校などの卒業式での行進曲の定番となっていて、単に「pomp and circumstance」とか「The Graduation March」とか呼ばれています。
トリオが終わると再現部に入り、主題が回帰し第1主題、第2主題が続いた後、トリオの旋律が再現部では主調のまま(ニ長調)で再現され、曲の最後に主部の第1主題が登場して幕を閉じます。
フルートとオーケストラの協奏曲2番、二長調k314(K6 285d)は、フルートのために書かれた名曲として世界中の音楽ファンに親しまれ、古今のフルート協奏曲の中でも、演奏会や教育の現場において頻繁に取り上げられている名曲ですが、実はその誕生方法は意外なものでした。
この曲は、インド出身のオランダ貴族De Jean(又はDejean)の出した注文に答えるために1778年1月~2月頃書かれたものです。モーツァルト22~23歳にあたり、恐らく母親と二人で滞在していたドイツのマンハイムで執筆されたと思われます。
フルートの為の作曲の注文は3曲でしたが、モーツァルトはこの作曲に大いなる熱意で取り組んだ様子はなく、K313とK314の2曲しか完成していません。おまけに問題のk314は新作ではなく、前年にザルツブルグで書いたオーボエ協奏曲(これもk314と呼ばれています。)のフルート協奏曲への純然たる書き換えでした。変えた点といえば、調をハ長調から二長調に移し、フルート特有の技術的及び音色的特性によりよく応じるように、いくつかの独奏部分を変更したことぐらいです。
こうしたことから、委託者はモーツァルトに、約束の金額の半分しか払わなかったと言われています。
曲の印象はフランス風で、響きはきらびやかであり、数々の美しいメロディーにも事欠きません。
第1楽章 Allegro aperto 二長調 4/4拍子 協奏風ソナタ形式
apertoアペルトとは「開放的な」という意味で、明るく溌剌としたロココ趣味にあふれています。
第2楽章 Andante ma non troppo ト長調 3/4拍子 ソナタ形式
やや自由なソナタ形式で、唯一田園的な歩みの楽章であり、叙情的に歌います。
第3楽章 Rondo allegro 二長調 2/4拍子
フルートの技術的可能性が、モーツァルトの天才特有の直感的な巧みさをもって利用され尽くされています。特別に輝かしいルフランが、一連の、常に変化する魅惑的な変奏で何度も提示されます。
なお、この曲のフルート独奏には、全曲で3カ所ほど、カデンツァと呼ばれる、ソリストによる即興演奏をはめ込むことが出来るようになっていて、古今、幾多のカデンツァが披露されています。今回の演奏では、ソリスト青木美咲オリジナルのカデンツァが奏でられがますので、ご堪能下さい。第1楽章のカデンツァが一番長く、聴かせどころです。
♪ 交響曲第4番 ホ短調 op.98
(ブラームス)
3曲の交響曲を完成させたブラームスは1884年、新しい交響曲の作曲に着手し、まず第1楽章と第2楽章の作曲を行い、翌年第3楽章・第4楽章を完成させました。彼はこれまでの3曲とは全く異なる創作態度で臨み、この作品によってブラームスは明確に後期様式の入り口に立つことになります。
第1楽章 Allegro non troppo ホ短調 2/2拍子。溜息のように3度下行と6度上行を繰り返しながら、静かに下行する主題は感動的で、後期のブラームスの個性がもっともよく発揮されています。この楽章はソナタ形式を土台としていますが、展開部は第1主題の変奏となっており、第1主題がさまざまに形を変えて表現されます。
第2楽章 Andante moderato ホ長調 6/8拍子。ホルンがフォルテで主題を奏すると、オーボエとファゴット、さらにフルートにこの主題が受け継がれます。調号はホ長調ですが、この開始の主題はフリギア旋法で、宿命的な印象を与えます。その後、ホ長調の柔和な調でこの主題が再提示されます。後期のブラームスの特徴である長調と短調の揺れ動きが表現されています。
E上のフリギア旋法の音階(ミを主音とする、中世に使われた教会旋法で、自然短音階の第2音が半音下がった形)
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第3楽章 Allegro giocoso ハ長調 2/4拍子。ハ長調の明朗な調ですが、曲想表示にある「giocoso」というよりも、スケルツォ風です。下行音階の動機で開始し、トライアングルが高揚感を盛り上げています。
第4楽章 Allegro energico e passionato ホ短調 3/4拍子。一般に「パッサカリア」と呼ばれますが、楽譜ではこの表記は用いられていません。バッハの「シャコンヌ」の主題をもとに全部で30の変奏が繰り広げられます。
バッハのシャコンヌ「わが苦しみの日々を」の主題
ブラームスの本曲の主題
この楽章は主題および第1変奏から第11変奏(提示部)、第12変奏から第15変奏(展開部1 この部分だけ3/2拍子に変わりテンポが半分に遅くなります。第12変奏では印象的なフルート・ソロが聴かれます。 )、第16変奏から第23変奏(展開部2)、第24変奏から第30変奏(再現部)、そしてコーダという構成になっており、ブラームスはこれらの変奏曲を大きくソナタ形式的にまとめあげています。
コーダでは第1楽章の下行3度の動機が再び用いられて、作品を締め括ります。